かんごし父ちゃんのナース駆け込み寺!

このブログは認定看護師として集中治療室で勤務するかんごし父ちゃんが、困ったナースや看護学生が気軽に学べる内容の情報や2児のパパとして育児に奮闘する日記をゆる〜く描いたブログです。

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鎮痛・鎮静管理の基本は〇〇○○ファースト!!

皆様こんにちこんばんは!

 

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医療関係ブログで上高地ネタの連投ですみません^^;

 

 

原点回帰ということで、集中治療の基本!である鎮痛・鎮静の考え方についてお話ししようと思います。

 

ちょこっと臨床場面を想起してみましょう。ということで、いつものお二人に登場してもらいましょうw

 

新人朝倉「〇〇さ〜ん、今はお口に管(気管挿管)が入っているので、歯磨きをお手伝いしますよ〜。」

 

 

 

口腔ケアを始めると・・・・

 

 

新人朝倉「〇〇さん!どうしたんですか!!ちょっと危ないので顔をふったり手をバタバタするのは辞めてください!!しゅに〜ん!」

 

新人朝倉「とりあえず今は危険だから、プロポフォールをフラッシュしないと!」

 

 

ピッピッピッピ(シリンジポンプを早送り)

 

 

尾崎主任「あさくら!鎮静を優先する前に鎮痛は評価したの?!」

 

とまぁこんな臨床場面です。

 

皆様も経験ありますか?

 

と〜ちゃんもとりあえず動いたら鎮静するようにしていた時期があります。

 

看護師からすると患者さんが深く鎮静されていた方が、自己抜管!(患者さん自身が気管チューブを抜くこと)なんてリスクも下がるので、「業務上は楽」なわけです。

 

ただこれは看護師にとって都合が良いだけで、患者さんにとっては様々な有害事象のリスクに晒されます。

 

ということで今回は、鎮痛・鎮静管理について一緒に勉強していきましょう^^

 

 

この記事を読むことで・・

  • 鎮静の前に考えるべきことが分かります
  • 鎮痛と鎮静の違いについて分かります
  • 鎮痛と鎮静薬の薬理作用が分かります
  • 深い鎮静の弊害が分かります

 

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<今日の内容>

 

その薬って鎮静?それとも鎮痛?

ICUで働き始めたばかりの頃って、とりあえず人工呼吸器の患者さんから受け持って。みたいなところがあると思います。

 

 

そうすると、一般病棟とは違ってたくさんの点滴に囲まれた患者さんを見ることになります。

 

はじめは一つひとつの薬剤の投与の目的を考える余裕もなく、業務をこなすのに精一杯になります。

 

これはみんな一緒です。安心してください。

 

そして薬の勉強を始めると、まずはカテコラミンなどの昇圧剤などに目が行きがちです。

 

しかし、鎮痛・鎮静薬の重要性は昨今のガイドライン(PAD/PADISガイドライン)などからも分かるようにとても重要な薬剤です。

 

先ほどの事例を見てみましょう。

 

■〇〇さん(78歳男性)

・消化管穿孔の術後に酸素化の低下を認め気管挿管のままICUに入室

・持続投与している薬剤

 

【CV:茶】

細胞外液 100ml/hr

【CV:白】

5%ブドウ糖 10ml/hr

ノルアドレナリン 2ml/hr

【CV:青】

5%ブドウ糖 5ml/hr

フェンタニル 2ml/hr

【末梢ライン】

プロポフォール(1%) 5ml/hr

 

これらの薬剤を鎮静と鎮痛に分けて考えます。

 

まず鎮静はプロポフォールです。真っ白な液体の薬剤です。

 

これは短期間の鎮静として使用されている施設も多いと思います。

 

次に鎮痛はフェンタニルになります。 集中治療室の鎮痛管理としては最もポピュラーな薬剤だと思います。

 

 

時々、フェンタニルを鎮静と捉えている看護師もいるので、ここは鎮静と鎮痛は分けて考えるようにしましょう。

 

その理由を次の項で説明します。

 

 

鎮痛と鎮静の使い分け

まずはじめに当たり前だけど、とても大事なことをお伝えします。

  • 鎮痛薬には鎮静効果はない
  • 鎮静薬に鎮痛効果はない

この2つは当たり前なんですが、とても重要です。

 

 

一部、鎮痛効果がある鎮静薬もあることはあります。しかし、基本的には上記の原則で考える必要があります。

 

 

なぜ重要かというと、それぞれの薬剤は使用する目的が違うからです。

 

 

■鎮痛薬の目的

以前の記事でも触れましたが、重症患者さんは様々な場面そしてデバイスによって痛みを感じています。

 

 

nurse-daddy.hatenablog.com

 

この事例の患者さんは、手術創やドレーン 刺入部の痛みそして気管チューブの違和感といった痛みが想定されます。

 

それだけではなくて、自分自身で動けないことや体位変換をはじめとする看護ケアにも痛みを感じています。

 

このような理由があるため、鎮痛は必須です。

 

痛みは不安と密接に関連しています。

 

痛みが強くなれば不安が強くなりますし、逆に不安が強くなれば痛みも増します。

 

 

これは自分自身に置き換えても分かりやすいと思います。

 

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<痛みの発現機序と鎮痛薬>

痛みは処置などやデバイス留置などに伴う機械刺激、そして炎症反応により発痛物質の1つであるプロスタグランジン(特にPGE2) が産生され末梢神経が活性化されます。

 

 

そうすると、脊髄後角にシグナルが伝達され、そのシグナルが最終的に脳に伝達されて「痛み」として認識されます。

 

普段使用するNSAIDsは痛みの原因物質であるプロスタグランジンの産生を抑制して鎮痛効果を発揮します。

 

一方でフェンタニルなどのオピオイドは脳へ直接作用して鎮痛効果を発現します。

 

 

■鎮静薬の目的

鎮静の目的はいくつかあるので、箇条書きとします。

 

  • 不安の軽減=安楽の維持
  • 不穏を予防して酸素消費量を低減する

 

 

ざっくりこのようなところです。

 

ここで重要なのが、鎮静の目的は患者さんを眠らせることではない。ということです。

 

つまり、人工呼吸器を使用していても不安や不穏がなければ鎮静は不要となります。

 

鎮痛・鎮静管理の大きな目的は、患者さんの安楽(Comfort)を確保することです。

 

なので鎮痛と鎮静の目的の違いを理解しつつ、基本的にはワンセットで管理する必要があります。

 

鎮痛がコントロールされていなければ、鎮静の量は増えていきます。

 

お示しした事例では、顔を振ったり手足を動かすといった様子が見受けられます。

 

これは「鎮静が甘い」と考えるのではなく、「鎮痛が不十分」ということをまずは考えるべきです。

 

さすが尾崎主任。鎮痛のアセスメントを優先していましたよね?

 

患者さんの行動には必ず理由があります。

 

なので、この事例では鎮痛を評価して鎮痛の増量を検討することが優先となります。

 

鎮静の弊害

鎮静の弊害としてまず考えるべきは、患者さんの訴えや兆候が分かりづらくなってしまうことです。

 

患者さんからすれば”寒いから布団をかけたい””口が乾いたから湿らせて欲しい”といった、日常生活であればすぐにでも解決できることが、ICUにいると解決できません。

 

鎮静を深くかけてしまうと、その訴えさえも看護師に伝えることができません。

 

事例の患者さんが、実は吻合部の縫合不全によって徐々に腹膜炎が進行していたとしましょう。

 

当然、腹痛は時間が経過するとともに強くなるはずです。

 

これも鎮静が深くなっていれば訴えることができません。

 

これって地獄じゃないですか?そりゃ不穏やせん妄になる気持ちも分かります。

 

これらのニーズが充足されないと、患者さんの安楽が阻害されていくわけです。

 

患者さんが必死に手足を動かしたり顔をふるのは、こうしたことを必死に訴えているのかもしれません。

 

それに対して鎮静だけを増やしたら・・・・

ということです。

 

 

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鎮静によって人工呼吸器が離脱できない?

これもおおいに考えられます。

 

鎮静を深くすれば、自発呼吸は抑制されて人工呼吸器の設定としては機械呼吸(人工呼吸器が主体の呼吸)が優位になります。

 

つまり、呼吸筋は使う必要がないので呼吸筋は萎縮していきます。

 

それだけではなく、薬剤にもよりますが鎮静の量が増えてさらに長期化すれば、鎮静が遷延してしまい覚醒させて人工呼吸器から離脱したいのにできない・・

 

といった負のループを生むことになります。

 

そして人工呼吸器の期間が延長すれば、以前の記事でもお伝えしたVAP(人工呼吸器関連肺炎)を発症するリスクは高くなります。

 

 

nurse-daddy.hatenablog.com

 

こうなってしまうと、原疾患は改善しているのに合併症によってズルズルとICU期間が延長して、終いには気管切開・・・といったことにも繋がります。

 

なので、患者さんの鎮静深度の目標は個々で決めて必要最小限に止めることが重要です。

 

(覚醒すると血圧や心拍の変動が大きい、呼吸筋疲労が強いなどの場合は鎮静が必要です)

 

この記事の結論にもなりますが、鎮静を考える上では「鎮痛ファースト」で考えることが重要なのです。

 

 

鎮痛薬・鎮静薬の特徴

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薬剤の特徴は簡単に言えばこんな感じです。

 

ミダゾラム

ミダゾラムは超短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤の1つで、健忘作用があります。

 

プロポフォールと比較して血圧への影響は少ないです。

 

ベンゾジアゼピン系の薬剤はせん妄や不穏を誘発する可能性が高いため、できる限り使用しないという施設もあるのではないでしょうか。

 

高容量・長期間使用にて薬剤が遷延する印象があります。

 

この薬は通常の素材の点滴セットを使用するとルート内に薬剤が吸着するため、PVCフリーの点滴セットを使用する必要があります。

 

 

プロポフォール

作用発現・消失が早い薬として臨床で使用することが多い薬剤で、制吐作用・健忘作用があります。

末梢血管拡張・心抑制作用により血圧への影響は大きい薬剤で、鎮静開始と共にカウンターで昇圧剤を使用することもあります。

 

高容量・長期投与でPRIS(プロポフォール注入症候群)を合併することがあります。

 

PRISはプロポフォールの投与により横紋筋融解や乳酸アシドーシス、AKIなどを引き起こす重篤な合併症です。

 

大豆油を原料としているため、細菌繁殖を考慮して冷所保存とし12時間毎で薬剤・ルートを交換する必要があります。

(1ml=1.1kcal:ダイエットには大敵ね・・)

 

■デクスメデトミジン

比較的新しい薬剤で、上記の2つの薬剤がGABA受容体(※次回説明します)に関連して作用するのに対して、デクスメデトミジンは脳幹の青斑核に作用して生理的な睡眠を誘発します。

 

 

そのため、臨床では刺激が入ると覚醒することが見受けられます。

 

基本的に呼吸抑制作用がないため、抜管後も使用することができます。

 

注意すべき点は、徐脈がみられることがある点です。

 

投与初期にローディングすることがありますが、徐脈に注意すべきです。

 

また、不穏だ!といってフラッシュすることは危険なので避けた方が無難です。

 

 

ここまでで文字数が多くなってしまったので、続きは次回にしたいと思います^^

 

それでは!

 

次回へ続く。