かんごし父ちゃんのナース駆け込み寺!

このブログは認定看護師として集中治療室で勤務するかんごし父ちゃんが、困ったナースや看護学生が気軽に学べる内容の情報や2児のパパとして育児に奮闘する日記をゆる〜く描いたブログです。

MENU

人工呼吸器患者のSpO2が低下!吸引で解決するの?の巻

皆様こんにちこんばんは!

 

ブログをはじめてCSSとかHTMLとかを知って、子供みたいに楽しんで学んでると〜ちゃんです!

最近はこのブログページのデザインを変更してるんですが、残念すぎるほど色のセンスなしw

 

見るたびにデザイン変わってたらすまみセーン!w

 

今回は臨床あるあるの、人工呼吸器患者さんのSpO2低下に対する対処方法といたします。

臨床では「とりあえず生(ビール)で!」と言わんばかりの、SpO2低下に対してとりあえず吸引という介入。

看護師の持っているカードは少ないので、気持ちはよぉ〜く分かります。

でも、吸引による侵襲と低酸素に与える影響も視野に入れる必要があります。

そう。看護ケアにも作用(ベネフィット)があれば副作用(リスク)があるからです。

 

この記事を読むことで、、

  • 人工呼吸器の患者における吸引実施の判断が適切にできるようになります
  • SpO2低下のメカニズムに合わせた対応ができるようになります

では早速いきましょう!

f:id:nurse-daddy:20201022162943j:plain

<今日の内容>

 

吸引の判断ってどうしてる?

さて、人工呼吸器の患者さんに対して普段当たり前に実施している「吸引」ですがどんな時に実施していますか?

  • 体位変換の前後?
  • 自分が休憩に入る前?
  • 経管栄養の前?
  • 患者さんがむせた時?
  • SpO2が低下した時?

これはと〜ちゃんの病院あるあるで、どれも気持ちは分かるんですけど何か大事な要素が抜け落ちていることに気が付きませんか?

 

そうです。すべて『看護師の都合』で実施しているということです。

つまり、科学的な根拠に基づいた判断ができていないということになります。

 

病院の研修とかOJT(臨床現場での教育)って、どんな時に吸引をすべきかは意外に教えてくれないもの。

冒頭でもお伝えしましたが、吸引は患者さんに対して侵襲を与えます。

 

現に、ICUにいる50%の患者さんは看護ケア中に何らかの苦痛や痛みを感じています*1。

急性期の痛みって、慢性痛にまで発展することがあるそうなんです。

つまり、QOLに大きく関わるということをナースは理解する必要があります。

 

 

しかし、侵襲を与える可能性がありながらもなお実施するのはなぜでしょう?

それはリスクを上回るベネフィットがあるからです。

だからこそプロとして明確な判断ができるような知識が必要なんですね♪

 

では具体的な判断の方法を見ていきましょう。

気道分泌物(喀痰)の存在を明らかにする

吸引のターゲットは当然、気道に存在する分泌物です。これを推定するためにはいくつかの方法があります。

  • 人工呼吸器のフロー波形を観察する
  • 胸部や人工呼吸器回路の聴診をする

様々な判断の方法があるとは思いますが、今回はこの2つに焦点を当てたいと思います。

人工呼吸器のフロー波形

フロー(気流)波形とは人工呼吸器が送っているガスの気流を記録した波形です。

こんな波形を見たことありませんか?

f:id:nurse-daddy:20201022141417p:plain

人工呼吸器が好きな人なら分かると思いますが、これは従圧式(Pressure Control:PC)のフロー波形です。患者さんの吸気では人工呼吸器が送気しているので、ベースラインよりも上側に波形が立ち上がります。

そして、最初の真っ直ぐ立ち上がった状態から、なだらかにベースラインへ波形が戻ります。

これは送気のスピードが緩やかになっていることを表します。

ベースライン=0まで戻る(吸気が終了)と、次は呼気に移ります。呼気はベースラインの下側に波形が描かれます。ちなみに人工呼吸器における呼気とは、患者さんが吐いているということではありません。膨らんだ風船から自然と空気が抜けるのと一緒で、受動的になります。

 

そして、気道内の分泌物を示唆する波形がコチラ

f:id:nurse-daddy:20201022142656p:plain

ぱっと見て分かる通り、で囲まれている部分(呼気側のフロー)が揺れているのが分かりますね。この状態であると、気道内(正確にいうと回路内のどこか)に分泌物があることを示唆します。

人工呼吸器から送気されたガスが、再び呼気回路を経由して人工呼吸器に戻る際に、分泌物が貯留した状態だと気流が変化します。(下図参照)これが呼気波形の揺らぎとして、記録されるわけです。

f:id:nurse-daddy:20201022143734p:plain

ただし、呼気波形の揺らぎは回路の内腔に付着した水滴など他の要因にも影響されますのでご注意を。

一番重要なフィジカル!

ナースにとってフィジカルイグザミネーション(身体診察)は強力な味方です。

しかし、フィジカルで得た情報をケアや病態の推論に生かさなければ、フィジカルアセスメントにはなりません。(ここテストでまーす) 

 

聴診で推定

まずは聴診を見ていきましょう。

ちなみに皆様、看護師が吸引できる範囲ってどこまでかご存知ですか?

答えは「気管分岐部」です。

f:id:nurse-daddy:20201022145209p:plain

上の図ので囲まれている部分。気管(挿管)チューブは通常この気管分岐部から2〜3cm上に位置するように固定されます。(Xpで見る場合は椎体2,3個分でもある)

閉鎖式吸引で吸引することがほとんどだと思いますが、適正な挿入長であれば吸引できる範囲はここまでなんです。

つまり、この気管分岐部周囲で肺副雑音が聴取されれば、分泌物が貯留していることが推定されるのです。

 

がしかし、ナースと言えど体を透視する技術は学校で学んでいません。w

そこで重要なのがランドマーク(目印)を活用することです。

気管分岐部の位置は体表から推定する場合、胸骨角を見つけることが重要です。

 

胸骨角の見つけ方

鎖骨の付け根あたりから胸骨に沿ってスーッと指でなぞるとボコっと出っ張っている部分があります。これが胸骨角です。第二肋間に相当するので、12誘導心電図の際に第四肋間を見つける時にも使えます。

f:id:nurse-daddy:20201022150746p:plain

この胸骨角はちょうど第二肋間に相当します。そうです。気管分岐部は第二肋間と場所に位置するのです。

つまり、聴診の際には胸骨角の横っちょを聴診すれば気管分岐部の状態を評価できるのです。

そこで副雑音が聴取されれば分泌物の貯留が疑われるのです。

 

また、患者さんの気道は気管チューブと回路内で繋がれた状態ですから、気管チューブに聴診器を当てて判断するというのもアリだと思います。

ちなみに、聴診の異常と呼気のフロー波形の揺らぎを組み合わせると、気道内に分泌物が貯留している確率は上がります*2。

 

では、背中や末梢の方で副雑音が聴取されたらどうするか?

という疑問が出てくると思います。

この場合は、当然吸引では解決できません。

答えは簡単で、分泌物を中枢気道に移動すれば良いんです。

具体的にいうと体位ドレナージというやつですね♪これは以前の看護師国家試験にも問題として出ていました。

 

これが、身体所見で得た情報をケアに結びつけてはじめてフィジカルアセスメントになりましたね♪

 

ポイント
  • 人工呼吸器の呼気フローをチェック
  • 胸骨角を目安に聴診を行う
  • 2つの所見を組み合わせることで確率が上がる

SpO2低下は痰だけの問題?

人工呼吸器を使用している患者さんのSpO2低下の原因は様々です。

今回は1つの考え方をお話しします。

ご存知の方も多いかと思いますが、人工呼吸器の患者さんのSpO2が低下した時には、DOPEの視点で考えると分かりやすいです。

DOPEとはそれぞれの頭文字を取ったものです。

 

D: tube Displacement   ・・・ チューブの逸脱(位置異常)

O:tube Obstruktion ・・・ チューブの閉塞

P:Pneumothrax ・・・ 気胸(これはVILIです)

E:Equipment ・・・ 機器の問題

 

今回のテーマでもありますが、SpO2が低下した時に吸引で解決できるのは2番目の閉塞だけです。こう考えると、安易にSpO2が低下しているからと言って吸引するのは、SpO2低下という問題が解決できないだけでなく、苦痛を与えたり、かえって低酸素を助長させてしまったりする可能性があります。

 

SpO2が低下していたから吸引をした患者が、実は気胸を起こしていて、その状態で吸引を続けていた・・と考えたらとてもコワイですよね。

 

まずは、チューブの固定状況を確認して(D)聴診やフロー波形を観察して(O・P)機械側の確認をする。SpO2が低下した時は、このDOPEに立ち返って評価するのが大切です。

 

まとめ

  • 人工呼吸器患者さんのSpO2低下はDOPEでアセスメント
  • 吸引できる範囲は限られているため体位ドレナージなどのケアを組み合わせる
  • 看護ケアによる副作用(リスク)も考えて看護師しよう

それでは、歯磨いて寝ろよ!

by 看護師と〜ちゃん

 

引用

1  Anaesthesiol Intensive Ther.2017;49(1):66-72.

2. Chest.2000 Oct;118(4):1095-9.