うつ伏せ(腹臥位)にすると何が良いの?COVID-19(コロナウィルス)と腹臥位療法の関係。
皆様こんにちこんばんは!
今回は”腹臥位療法”に関するお話です。
最近テレビでは新型コロナウィルス感染症の話で持ちきりです。
そんな中「患者をうつ伏せにすることが有効です」という報道も見かけます。
実は患者をうつ伏せに寝かせる腹臥位療法はコロナ以前から行われている治療法です。
集中治療の経験がない方などはなんで腹臥位にすると良いんだろう・・
こんなことを思った方はいるのではないでしょうか?
父ちゃん自身大事にしていることでもありますが
重要なケアであっても
それを実施する人が目的やリスク&ベネフィットを理解していないと意味がない
と考えています。
とりわけ新型コロナウィルス感染症関係に関しては
”腹臥位””ECMO””サイトカインストーム”
などの”言葉”だけが一人歩きしている印象があります。
なのでこの記事を通して腹臥位療法について一緒に学習していきましょう^^
では早速いきましょう!
■今日の内容
腹臥位療法の3つのメリット
腹臥位療法は英語でProne Positioning(プローンポジショニング)と呼びます。
ちなみに仰臥位は英語でSupine(スーパイン)と言います。
なんだか仰臥位っぽくないですね笑
さて結論からお伝えすると
COVID-19に対する腹臥位療法の目的・メリットは以下の通りです
- 背側の無気肺(=下側肺障害/荷重側肺障害)の改善と予防
- V/Qミスマッチ(換気血流比不均等)の是正
- 1回換気量の低減
目的やメリットを知らないよりはこれらの項目について知った方が良いです。
しかしこれだけでも不十分です。
特に
腹臥位療法で1回換気量を減らす?!
と不思議に思った方もいると思います。
なのでこれ以降に解説する”意味”についてしっかりと理解しましょう^^
背側の無気肺(=下側肺障害)の予防と改善
皆様は無気肺という言葉を聞いたことがありますか?
カルテで見かけたことがあるという方もいるかと思います。
無気肺とは簡単にいうと肺に空気が入っていないということです。
ん??
と思いますよね^^;
肺というのはブドウの房のように無数の肺胞がくっついた状態になっています。
通常は肺胞の中は空気で満たされています。
なのでX線画像を見ると黒く映ります。
無気肺は様々な要因によって引き起こされます。
■気管支の閉塞による無気肺
これは閉塞性の無気肺とも呼ばれます。
気道分泌物(痰)などによって気管支が閉塞することで
その先の肺胞に空気が到達しない(肺胞が萎んでしまう=虚脱)状態を示します。
言い方を変えると肺(肺胞)が潰れた状態とも言えます。
肺胞は空気を失い潰れた状態となっているのでX線画像では潰れた範囲が白く映ります。
人工呼吸器患者さんのX線画像である日突然肺の一部が白くなってる!
ということで発覚することがあります。
その時は
気管支鏡で分泌物を吸引して閉塞を解除したり
体位ドレナージを行うことによって改善します。
この他にも胸水によって圧迫されることや高濃度酸素を投与することにより起こる吸収性無気肺など無気肺の原因は様々あります。
COVID-19と下側肺障害
さて、無気肺の説明をしましたがCOVID-19との関連を解説します。
重症のCOVID-19では人工呼吸器管理を要する状態になります。
特にCOVID-19では治療が確立しておらず改善するか否かは最終的に患者さん自身の免疫に依存します。
つまり患者さんの免疫がウィルスに打ち勝つまでの期間を医療でサポートするという”支持療法”が主体です。
そうなると人工呼吸器期間が長引くことにもなります。
人工呼吸器では生理的な呼吸である陰圧呼吸ではなく陽圧呼吸になります。
そうすると背中側の肺が無気肺になりやすいと言われています。
その理由は大きく分けて2つです。
- 臥床による影響
- 自発呼吸の消失に伴う横隔膜の稼働制限
■臥床による影響
人工呼吸器の患者さんは臥床が余儀なくされます。
そうすると重力によって気道分泌物が背中側に貯留した状態になります。
ちなみに背中側の肺というのは主に下葉です。
*下葉は基本的に背中側に大きく広がっています。
(下葉の聴診する場合は背中側に聴診器を当てましょう)
■陽圧換気時の横隔膜の動き
陰圧呼吸と陽圧呼吸の大きな違いは横隔膜の動きにあります。
まず図を見て下さい。
【図の説明】
・青い線:呼気時の横隔膜の位置
・青い点線:吸気時の横隔膜の位置
・黄色の丸:肺
・赤い>:肺毛細血管
生理的な呼吸では横隔膜が大きく下がることで胸腔内の陰圧が発生します。
自然呼吸の場合はどちらかというと背中側の横隔膜が大きく動きます。
そうすると背側の肺(下葉)の換気量が大きくなります。
さらには仰臥位の場合は重力によって背中側の肺毛細血管の血流が増えるので
換気量が増えた肺=血流が増えた毛細血管
という具合に換気と血流のバランスがつり合った状態となりガス交換の効率が良くなります。
一方で陽圧呼吸をみましょう。
陽圧呼吸(機械換気)では自発呼吸がなければ横隔膜は動くことはありません。
人工呼吸器から肺に向かって強制的にガスを送り込みます。
そうすると横隔膜は押されるような形で足側に動きます。
しかしながら臓器などの重さによって背側の横隔膜は動きづらい状況です。
なので腹側の横隔膜が動くことになります。
もうお分かりだと思いますが
背中側の肺は拡張しづらい状況になります。
さらには
換気の多い肺=血流の少ない毛細血管
換気の小さい肺=血流の多い毛細血管
といった状況が生まれガス交換の効率が悪くなります。
これが
V(換気)/Q(血流)ミスマッチ=換気血流比不均等
となるわけです。
ちなみに無気肺となった肺の周りの毛細血管は
肺から酸素を渡されない状態で動脈血として心臓に戻ります。
なので動脈血の酸素飽和度は低下して低酸素血症に陥ります(シャント)
COVID-19をはじめARDSでは広範なシャントによって著しい低酸素血症になるのが呼吸不全の主座となります。
腹臥位療法の主な目的はV/Qの是正と無気肺の改善だ!
ここまで説明してきましたが、COVID-19の重症例では背側の広範な無気肺を生じることになります。
腹臥位療法ではこれが逆転します。
つまり
- 潰れた背側の肺を上にすることで再び拡張する
- 換気の保たれている肺を下にして血流とのバランスを改善する
大きなメリットとしては潰れてしまった下葉を再び拡張させることにあります。
これによって酸素化を著しく改善し、ひいては患者のアウトカムを良好にしようというのが腹臥位療法のねらいです。
腹臥位療法のエビデンス
メリットや目的について解説しましたがエビデンスはあるの?
と思った方もいると思います。
腹臥位療法は経験的に以前から行われていたそうですが、酸素化を改善するという以上のアウトカムが示された研究はなかったそうです。
しかし2013年にARDSに対する腹臥位療法の有効性が示された論文がNew england journal (権威のある雑誌)から発表されました。
これはARDSと判断された患者さん466人を対象に腹臥位と仰臥位(半座位)の2群にランダムに分けて比較しました。(フランスとスペイン)
結果としては患者さんの重症度(SOFAスコアで調整)の影響を考慮しても腹臥位群で28日死亡率(Primary Outcome)が統計的に優位に低かったという結果になりました。
他にも腹臥位療法についてはメタアナリシスなどの論文が出されていて、重症ARDSの標準治療の1つになっています。
エビデンスという言葉を聞きますが本当の意味でのエビデンスは研究(科学)によって有効性が示されたものを示します。
もちろん解剖生理学的なエビデンスも重要なのどすが。
ということで少し長くなってしまったので
ここでPart1を終わりにしたいと思います。
ここまでご覧になって腹臥位療法の目的やメリットについて理解できましたでしょうか?
次回も腹臥位療法の続編をお伝えしたいと思います^^
次回は
- 腹臥位療法の具体的な方法
- 腹臥位療法のデメリットや注意点
- 覚醒下の腹臥位療法
これらについて解説したいと思います。
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では歯磨いて寝ろよ!
by看護師父ちゃん